最終年度特別シンポジウム:マニフェスト・デスティニーと 21 世紀アメリカ合衆国の現実

2018年3月22日(木)16:00-18:30

成蹊大学10号館2階 第2中会議室

MD2プロジェクトの概要および 4 年間の研究報告

司会:下河辺美知子(成蹊大学)

演じられるマニフェスト・デスティニー——パロディと「帝国」の二重意識

講師:日比野啓(成蹊大学)

歌われるマニフェスト・デスティニー ——大衆音楽と歴史認識

講師:舌津智之(立教大学)

マニフェスト・デスティニーの発生現場——拡張・獲得・グローバリゼーション

講師:下河辺美知子

帝国の進路——ストラデイナス、ガスト、ロイツェ

講師:巽孝之(慶應義塾大学)

本基盤研究(B)は、マニフェスト・デスティニーというレトリックの国際政治における意義を歴史的にたどると同時に、その心理的・精神的効果がアメリカ国民の情動を操作するナラティヴとしていかに機能してき ているかに焦点をあて、地球規模でのアメリカの位置を読み直すことを目指す試みです。
今年は、本研究の最終年度となりますので、過去4年間の研究成果を総括し、今後の新たな課題を明 確にすべく、科研メンバー4名による特別シンポジウムを行います。ジョン・オサリヴァンが「マニフェスト・ デスティニー」という言葉を初めて使用した 19 世紀の半ばと同様、ナショナリズムと軍事的緊張が可視化 され、ますます混迷の度合いを深める 21 世紀社会に向け、人文研究が何を提言しうるのか/すべきなの かについて、多角的な洞察をみなさんと共有することができれば幸いです。

なお、シンポジウム終了後、10号館二階大会議室にて、ワインパーティー(18:30-20:00)を開きます。 無料でご招待させていただきますので、お時間のある方はぜひ、こちらにもご参加ください。

研究代表者:下河辺美知子(成蹊大学)

研究分担者:巽孝之(慶應義塾大学)、舌津智之(立教大学)、日比野啓(成蹊大学)

※どなたも歓迎ですが、(シンポジウム、ワイン・パーティ各々について)出席予定の方は、hibinoあっとまーくfh.seikei.ac.jpに前日までにご連絡ください。

2017年度第4回研究会:ポストモダン・アメリカの現在形

2018年2月19日(月)18:30-20:30
成蹊大学3号館101教室10号館2階第二中会議室(会場が変更になりました)

基調発表
デリーロ文学における微粒子――『ポイント・オメガ』から『ゼロK』へ
渡邉克昭(大阪大学)

ワークショップ
Don DeLillo,”TheStarveling”を読む
近藤佑樹(大阪大学大学院修士課程)
田浦紘一朗(成蹊大学大学院博士課程)
冨塚亮平(慶應義塾大学大学院博士課程)
コメンテイター:渡邉克昭

本基盤研究(B)は、マニフェスト・デスティニーというレトリックの国際政治における意義を歴史的にたどると同時に、その心理的・精神的効果がアメリカ国民の情動を操作するナラティヴとしていかに機能してきているかに焦点をあて、地球規模でのアメリカの位置を読み直すことを目指している。

今回は、現代アメリカを代表するポストモダン作家であるDonDeLilloの新しい諸作品に注目し、我々と同時代を生きる彼が過去数年の間に描き出した最先端の世界認識にスポットを当てる。

まず基調講演では、渡邉克昭氏が、デリーロ文学を「微粒子」という視座から読み直す。そのような試みはこれまでほとんどなされていないが、素材となる作品には事欠かない。今回は、そうしたテーマを概観したのち、『ポイント・オメガ』に描かれた『二四時間サイコ』の光の微塵が織り成す超低速のシネマ空間と、『ゼロK』においてシャワーの水滴と化したアーティスの無限小の囁きに焦点を絞り、共通する微粒子のうち震えが、地質学的な無限大の時間相といかなる関係性をもつのか考察する。

その後はワークショップ形式とし、文芸誌Grantaに発表されたデリーロの“TheStarveling”を取り上げ、本邦東西の若手研究者3名に自由なそれぞれの視点から作品分析を行って頂く。2011年に発表されたこの短編を、上述の『ポイント・オメガ』(2010年)ならびに『ゼロK』(2016年)ともあわせて見据えるとき、そこには、いかなる2010年代の心象風景が――そしてポストモダン・アメリカの現在形が――立ち現れるのだろうか?

研究代表者:下河辺美知子(成蹊大学)研究分担者:巽孝之(慶應義塾大学)・舌津智之(立教大学)・日比野啓(成蹊大学)
*どなたにも無料で参加していただけますが、会場整理の都合上、hibinoあっとまーくfh.seikei.ac.jpに事前のご連絡を下さいますようお願いいたします。

2017年度第3回研究会 : 北米英領植民地保全のために:奴隷反乱・陰謀との闘い

主催:科学研究費・基盤研究(B)「マニフェスト・デスティニーの情動的効果と21世紀惑星的想像力」

講師:白川恵子(同志社大学)

2017年12月11日(月)18:30-20:30 成蹊大学10号館2階・第二中会議室

講師紹介

同志社大学文学部教授。慶應義塾大学文学部英米文学専攻博士課程修了(博士)。共著にWays of Being in Literary and Cultural Spaces(2016、Cambridge Scholars P)、『幻想と怪奇の英文学II――増殖進化編』(2016、春風社)、『アメリカン・ロードの物語学』(2015、金星堂)、『エスニック研究のフロンティア』(2014、金星堂)、『アメリカ文学における「老い」の政治学』(2012、 松籟社)、『アメリカ―<都市>の文化学』(2011、ミネルヴァ書房)など。

本基盤研究(B)は、マニフェスト・デスティニーのレトリックの国際政治における意義を歴史的にたどると同時に、その心理的・精神的効果がアメリカ国民の情動を操作するナラティヴとしていかに機能しているかに焦点をあて、地球規模でのアメリカの位置を読み直すことを目指している。

モンロー主義を下支えとしたジョン・L・オサリバンのテキサス「併合論」が、ヨーロッパの干渉排除とアメリカ領土拡張の一実践例を神意と結びつけるレトリックによって、大きな影響力を発揮したのは言うまでもない。しかし、もう一点、瞠目に値するのは、オサリバンが、当時の奴隷州拡張問題との関連づけを巧みに回避せんと腐心した文言や、奴隷制が仮に将来的に解消された暁には、解放奴隷を中央および南アメリカ地域に移送する可能性――いわば排除の論理でもあり、また二重の植民化論理でもある――を示唆した件であろう。テキサス併合によって奴隷制拡張論議が開くのは「明白」であるにもかかわらず、オサリバンは「明白な運命」という語の背後にそれを封じ込めようとしたと考えられる。

とはいえ、そもそもアメリカは、1845年よりもはるかに早い段階から、先住民殲滅にせよ奴隷制論議にせよ、人種に対する絶え間ない政策を強いられ続けてきたし、独立は支配と抱き合わせで想起されてきた。拡大膨張は、建国・共和政期にはすでに進捗していたが、植民地時代ですら、英領アメリカはヨーロッパ列強の叛乱教唆を含む人種問題と格闘し、領土保全のために苦慮してきたはずである。本発表では、英領植民地時代(具体的には、17世紀末から18世紀半ばにかけて)、複数箇所で勃発した奴隷叛乱/陰謀事件の実例から、スペインとの戦いを交えて何らかの関連を模索したい。具体的にはニューヨーク、ストノの事件を扱う予定であるが、その過程でバルバドスの事例も参照したい。

研究代表者:下河辺美知子(成蹊大学)

研究分担者:巽孝之(慶應義塾大学)・舌津智之(立教大学)・日比野啓(成蹊大学)

どなたも歓迎ですが、会場整理の都合上、hibinoあっとまーくfh.seikei.ac.jpに前日までにご連絡ください。

2017年度特別研究会:ソローと西漸の神話(Thoreau and the Westering Myth)

主催:科学研究費・基盤研究(B)「マニフェスト・デスティニーの情動的効果と21世紀惑星的想像力」

講師:フランソワ・スペック

討論者:山本洋平 (英語・通訳なし)

2017年9月28日(木)16:40〜18:40 立教大学5号館2階・5208教室

講師:リヨン高等師範学校(フランス国立科学研究センター)教授。パリ第七大学大学院博士課程修了。編著にEnvironmental Awareness and the Design of Literature(Brill, 2016年)、共編書にWalking and the Aesthetics of Modernity: Pedestrian Mobility in Literature and the Arts(Palgrave-Macmillan, 2016年)、Thoreauvian Modernities: Transatlantic Conversations on an American Icon(U of Georgia P, 2013年)など。

討論者:明治大学理工学部専任講師。立教大学大学院文学研究科博士課程修了。共編著に『環境人文学I——文化のなかの自然』、『環境人文学II——他者としての自然』(勉誠社、2017年)、論文に「明白ならざる運命——『ウォールデン』における動物表象」『ソローとアメリカ精神——米文学の源流を求めて』(金星堂、2012年)など。

 本基盤研究(B)は、マニフェスト・デスティニーのレトリックの国際政治における意義を歴史的にたどると同時に、その心理的・精神的効果がアメリカ国民の情動を操作するナラティヴとしていかに機能しているかに焦点をあて、地球規模でのアメリカの位置を読み直すことを目指している。
 本年、生誕200年を迎えるソロー(Henry David Thoreau)は、その環境問題に対する意識の高さと非暴力の政治学において、世界的 な再評価が進みつつある米国の思想家である。今回は、彼の代表的なエッセイのひとつである“Walking”を取り上げ、そこから見えてくる作家/思想家の本質に迫りたい。このエッセイは従来、「野生」の保全を訴えるエコロジカルなテクストとして評価される一方、その熱烈な西漸運動の賛美ゆえに、マニフェスト・デスティニーのイデオロギーと共犯関係にあるとの批判も受けてきた。保全と征服をめぐるこの一見矛盾したベクトルは、いかなる論理によって統合されうるのだろうか。ソローの思想の縮図とも言える濃密なテクストを精読することで、その複雑な多層性を再検証することが本企画の目的である。

研究代表者:下河辺美知子(成蹊大学)
研究分担者:巽孝之(慶應義塾大学)・舌津智之(立教大学)・日比野啓(成蹊大学)

2017年度第2回研究会:Networked Solitude: John Marr and Other Sailors における孤独の共同体

主催:科学研究費・基盤研究(B)「マニフェスト・デスティニーの情動的効果と21世紀惑星的想像力」

講師:古井義昭(青山学院大学)

2017年7月28日(金)18:30-20:30 成蹊大学10号館2階・第二会議室

講師紹介

青山学院大学文学部准教授。エモリー大学英文科博士課程修了(Ph.D.)。専門は19世紀アメリカ文学。共著に『モンロー・ドクトリンの半球分割』(2016、彩流社)。論文に “From the Private to the Public: Solitude in Brockden Brown’s Wieland.” Studies in English Literature 56 (2015、日本英文学会優秀論文賞)、 “Networked Solitude: Walden, or Life in Modern Communications.” Texas Studies in Literature and Language 58.3 (2016) など。

本基盤研究(B)は、マニフェスト・デスティニーのレトリックの国際政治における意義を歴史的にたどると同時に、その心理的・精神的効果がアメリカ国民の情動を操作するナラティヴとしていかに機能しているかに焦点をあて、地球規模でのアメリカの位置を読み直すことを目指している。

十九世紀中葉のアメリカ文学には、ソロー、ディキンソン、バートルビーなど「孤独」を体現した作家や登場人物が多い。その一方、当時のアメリカは「コミュニケーション革命」の時代を迎え、「接続」が国家的な理想として追求されていた。郵便システム、交通、電信などのコミュニケーション技術の発達により、十九世紀中葉のアメリカはかつてないほどのメディア環境を享受したのである。接続が金科玉条となった時代に生きたアメリカ作家たちは、一体どのような価値と意味を孤独に見出したのだろうか。

上記の問題意識を念頭に、本発表では「接続の時代における孤独」という逆説について考察する。具体的にはハーマン・メルヴィル晩年の詩集 John Marr and Other Sailors (1888) を取り上げ、とくに表題作 “John Marr” の読解を行う。この作品の舞台は、「マニフェスト・デスティニー」の大義のもとに西漸運動に突き進んでいた時代における開拓地である。元水夫の開拓者ジョン・マーは、水夫時代の追憶に耳を傾けてくれる友人がまわりに誰もおらず、まさに孤独にうちひしがれている。本発表では、この詩集をメルヴィル作品におけるデッド・レター表象の系譜のなかに位置付けることを通じて、ジョン・マーの、さらには晩年のメルヴィルの孤独について考察してみたい。

※本発表は刊行済みの拙論、“Writing a Durable Mark: A Community of Isolatoes in Melville’s John Marr and Other Sailors.” Leviathan: A Journal of Melville Studies 19.2 (2017) に基づくことをお断りしておく。

研究代表者:下河辺美知子(成蹊大学)
研究分担者:巽孝之(慶應義塾大学)・舌津智之(立教大学)・日比野啓(成蹊大学)

どなたも歓迎ですが、会場整理の都合上、hibinoあっとまーくfh.seikei.ac.jpに前日までにご連絡ください。

2016年度第4回研究会:アメリカ研究博論執筆ワークショップ

第4回研究会は、文部科学省科学研究費助成事業基盤研究(C)15K02349「モダニズム文学形成期の慶應義塾の介在と役割」および慶應義塾大学藝文學會、慶應義塾大学アメリカ研究プロジェクトとの共催企画で「アメリカ研究博論執筆ワークショップ」を実施します。

Dissertation Workshop in American Studies: “The Frontiers of Border Narrative under Trump’s Presidency”

3月24日(金)18:10-20:30

慶應義塾大学三田キャンパス 北館第二会議室

March 24, 2017 (Fri), 18:10-20:30

Meeting Room 2, North Hall, Keio University, Mita

発表者:ファリード・ベン=ユーセフ(カリフォルニア大学バークレー校博士課程)

ディスカッサント:細野香里(慶應義塾大学大学院博士課程)、冨塚亮平(慶應義塾大学大学院博士課程)

司会:巽孝之(慶應義塾大学教授)

Speaker: Fareed Ben-Youssef (University of California, Berkeley, Ph.D. candidate, Film & Media)

Discussants: Kaori Hosono (Keio University, Ph.D. candidate, American Literature and Popular Culture) and Ryohei Tomizuka (Keio University, Ph.D. candidate, American Literature and Film)

Moderator: Takayuki Tatsumi (Professor, American Literature, Keio University)

Fareed Ismail Ben-Youssef

Education

Dissertation (working): Visions of Power: Violence, the Law, and the Post-9/11 Genre Film.

2011: University of California, Berkeley, M.A. in the Film Studies Program in Rhetoric

2009: Princeton University, B.A. cum laude in English Literature with a Concentration in Film

Publication

2017: “The Border in Ridley Scott and Cormac McCarthy’s The Counselor: Where Our Hungers Trump Morality.” Southwestern American Literature. Forthcoming in Spring 2017 Issue.

どなたでも歓迎ですが、会場整理の都合上、kaori-0217あっとまーくz7.keio.jpに前日までにご連絡ください。

2016年度第3回研究会:翼の福音、あるいは呪われた凶器——リンドバーグと飛行の物語

主催:科学研究費・基盤研究(B)「マニフェスト・デスティニーの情動的効果と21世紀惑星的想像力」

講師:石原剛(早稲田大学)

2017年3月10日(金)15:30-17:30<開始時刻が通常より早いのでご注意ください>

成蹊大学10号館2階・大会議室

講師紹介

2003年、テキサス大学オースティン校アメリカ研究科博士課程修了、アメリカ研究博士(Ph.D.)。専門はアメリカ文学・文化。早稲田大学教育学部教授。著書にMark Twain in Japan(アメリカ学会清水博賞)、『マーク・トウェインと日本』(東北英文学会賞、日本児童文学会奨励賞)、『マーク・トウェイン文学/文化事典』(共著)などがある。2016年、NHKラジオ「文学の世界―マーク・トウェイン」担当講師。

本基盤研究(B)は、マニフェスト・デスティニーのレトリックの国際政治における意義を歴史的にたどると同時に、その心理的・精神的効果がアメリカ国民の情動を操作するナラティヴとしていかに機能しているかに焦点をあて、地球規模でのアメリカの位置を読み直すことを目指している。

古代ギリシャの時代より、かねてから空は神の領域とされてきた。飛行という手段を持つまで、人間は、数万年に亘り天なる空を見上げながら、そこに神への畏れを感じるほかなかった。しかし1903年、全くのダークホースであったライト兄弟が、空を自由に飛翔するための道具を発明した後、人類は後戻りできない神なる領域に足を踏み入れることになる。巨大な空間の征服こそ神が望んだ文明の福音、すなわちマニフェスト・デスティニーであると考えていたアメリカ人にとって、空を征服することは神が約束した「開拓」という仕事の総仕上げとでも呼べるものであった。

本発表ではチャールズ・リンドバーグが著した自伝的回想記The Spirit of St. Louis (1953年)に刻み込まれた飛行を巡る様々なアメリカの物語を掬い上げていく。フロンティアの物語の中に自己を位置づけようとする態度、飛行という行為に色濃く反映された宗教性、地上に展開する世界への空間認識、飛行に伴う時間感覚のズレ、さらには、飛行機というアメリカの発明品で新世界文明の中心地ニューヨークから旧世界文明の中心地パリに時空を超えて乗り込んでいくことの文化的意味などについて論じる。最終的には、人類進歩の象徴であるはずの飛行機が、人類史上最大の大量殺戮の道具と化すことへのリンドバーグの怖れに触れることで、マニフェスト・デスティニーの悲劇的運命の象徴として、リンドバーグと飛行機の関係を考えてみたい。

研究代表者:下河辺美知子(成蹊大学)

研究分担者:巽孝之(慶應義塾大学)・舌津智之(立教大学)・日比野啓(成蹊大学)

どなたも歓迎ですが、会場整理の都合上、hibinoあっとまーくfh.seikei.ac.jpに前日までにご連絡ください。

2016年度第2回研究会:Dos Passosと兵士の身体

主催:科学研究費・基盤研究(B)「マニフェスト・デスティニーの情動的効果と21世紀惑星的想像力」

2017年2月24日(金)18:30-20:30

成蹊大学10号館2階・第2中会議室

基調発表「名もなき者たちの物語―寄せ集めとしてのU. S.  A.三部作越智博美(一橋大学)

ワークショップ“The Body of an American”を読む

徳永裕(成蹊大学大学院博士前期課程)

志賀俊介(慶應義塾大学大学院博士後期課程)

桐山大介(ニューヨーク州立大学オールバニー校大学院博士後期課程)

コメンテイター:越智博美

本基盤研究(B)は、マニフェスト・デスティニーというレトリックの国際政治における意義を歴史的にたどると同時に、その心理的・精神的効果がアメリカ国民の情動を操作するナラティヴとしていかに機能してきているかに焦点をあて、地球規模でのアメリカの位置を読み直すことを目指している。

今回は、第一次大戦を経験した「ロスト・ジェネレーション」の一人とされるJohn Dos Passosに光を投じ、 戦争と国家をめぐる諸問題を掘り下げる。彼はしかし、その代表作であるU. S. A. 三部作を、狂騒の20年代ではなく、大恐慌の30年代に発表した。資本主義や愛国の情動に翳りが見え始める中、作家の社会意識はアメリカ合衆国の輪郭をどのように再定義したのであろうか。

まず基調講演では、越智博美氏が、U.S.A.三部作を多様な文章スタイルと多様な人からアメリカ合衆国を表象しようとした壮大な実験であると捉え、作品の諸要素を整理する。最初と最後に“U.S.A.”および”Vag”という短い文章を置くことで別個に発表された三作品は三部作しての結構が与えられているが、そこに挟まれた三作品が想像するアメリカ合衆国とはいかなるものであったかの考察を試みる。

その後はワークショップ形式とし、Dos Passosの “The Body of an American”に焦点を絞り、若手研究者3名に自由なそれぞれの視点からテクストの分析を行って頂く。1919 (1932年)の最後を飾るこのスケッチには、歴代大統領の人気ランキングで常に最下位を争うHardingの演説が引用されているが、今後彼のライバルとなるであろう新大統領が就任演説を終えた2017年の今、「アメリカ人の身体/遺体」は我々に何を語りかけるのか?

 

研究代表者:下河辺美知子(成蹊大学)

研究分担者:巽孝之(慶應義塾大学)・舌津智之(立教大学)・日比野啓(成蹊大学)

 

どなたにも無料で参加していただけますが、会場整理の都合上、hibinoあっとまーくfh.seikei.ac.jpに事前のご連絡を下さいますようお願いいたします。

2016年度第1回研究会:ハーマン・メルヴィルの「虚無の力」:『ピエール』にみるアメリカ民主主義の破壊と再創造

主催:科学研究費・基盤研究(B)「マニフェスト・デスティニーの情動的効果と21世紀惑星的想像力」

発表者:田ノ口正悟

2016年12月20日(火)18:30-20:30

成蹊大学10号館2階・大会議室

発表者紹介

慶應義塾大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課程在籍 同義塾大学海外派遣交換留学生としてカリフォルニア大学サンタバーバラ校大学院英文科留学(2015~2016)日本学術振興会特別研究員(2013~2015)日本アメリカ文学会第7回新人賞受賞(対象論文“A Dead Author to Be Resurrected: The Ambiguity of American Democracy in Herman Melville’s Pierre”がThe Journal of the American Literature Society of Japan No.15 (2016)に掲載予定)。

本基盤研究(B)は、マニフェスト・デスティニーのレトリックの国際政治における意義を歴史的にたどると同時に、その心理的・精神的効果がアメリカ国民の情動を操作するナラティヴとしていかに機能しているかに焦点をあてて研究するプロジェクトである。地球規模でアメリカの位置を読み直すことを目指して研究会を重ねてきた。今回は、現在、博士号請求論文執筆中の田ノ口正悟氏に研究発表をしていただく。

「ホーソーンとその苔」(1850)において、メルヴィルは師として敬愛するホーソーンの才能をその「闇の力」(“the power of blackness”)に見出した。美しい世界を描きながらも、ホーソーンの物語は人間が「生来持ち合わせている堕落と原罪」というカルヴィン主義的な闇を内包するからこそ唯一無二なのである。しかし、翌年に出版された『白鯨』において、メルヴィルはホーソーンへの憧れを屈折した形で表現する。第36章「後甲板」において、エイハブ船長は世界を闇から世界支配する存在に立ち至るため、モービー・ディックという「仮面」を打ち破るように船員を鼓舞するが、一方で、その背後には「何もないかもしれない」とも発言している。ここに作家のニヒリズムを見ることはたやすい。

しかし、虚無への傾倒こそが、キリスト教や民主主義といったアメリカの根本理念が抱える問題点を明らかにしつつ、同時に、それらを再構築するようなメルヴィル作品の原動力になっていると考えることはできないだろうか。わたしの博士論文では、メルヴィルが描く「虚無の力」(“the power of nothingness”) の考察を主眼におくが、その一例を示すため、本発表では第七長編『ピエール』(1852)を取り上げる。この作品についての従来の批評は、そのニヒリスティックな面をたびたび強調してきた。しかし、“authorship”の観点から再読することで、本作品の悲観的な顛末の両義性が露呈するのも見逃せない。一方ではピエールの作家としての死にアメリカ民主主義への批判が、そして他方では、イザベルという隠れた作家の暗躍にその再生が示されているからである。

研究代表者:下河辺美知子(成蹊大学)

研究分担者:巽孝之(慶應義塾大学)・舌津智之(立教大学)・日比野啓(成蹊大学)

 

※どなたも歓迎ですが、会場整理の都合上、hibinoあっとまーくfh.seikei.ac.jpに前日までにご連絡ください。

※また、博士論文執筆を予定している方は、当日午後5時半より懇談会を持ちたいと思います。お弁当をお出ししますので、参加希望の方は12月15日23時59分までにこのアドレスに申し込んでください。

2015年度第4回研究会:重ね書きのパレスチナと情動:ハーマン・メルヴィル『クラレル』を中心に

主催:科学研究費・基盤研究(B)「マニフェスト・デスティニーの情動的効果と21世紀惑星的想像力」

2016年3月6日(日)16:00-18:00 成蹊大学10号館2階・第2中会議室

講師:貞廣真紀

講師紹介:明治学院大学英文学科准教授。ニューヨーク州立大学バッファロー校大学院英文科博士課程修了 Ph.D 共著に『アメリカ文学のアリーナ−−ロマンス、大衆、文学史』(松柏社、2013年)、共訳書にエドワード・サイード『故国喪失についての省察2』(みすず書房、2009年)、論文に “The Transatlantic Melville Revival and the Construction of the American Past,” Sky-Hawk 2 (2014): 44-63。

本基盤研究(B)は、マニフェスト・デスティニーのレトリックの国際政治における意義を歴史的にたどると同時に、その心理的・精神的効果がアメリカ国民の情動を操作するナラティヴとしていかに機能しているかに焦点をあて、地球規模でのアメリカの位置を読み直すことを目指している。
今回は、メルヴィル研究者貞廣真紀氏をお迎えする。ハーマン・メルヴィルの『クラレル』(1876)は、西部開拓からパレスチナのシオニズム運動に至るまで、予型論的な想像力に支えられながら拡張してきたアメリカの歴史を再演しつつ、同時に解体(unlearn)しようとする欲望に支えられている。聖書が西部フロンティアに「約束の地」の予型を与え、今度はフロンティアの原型がパレスチナの予型の役割を果たすという重層化された風景の記述を意識するとき、アメリカ人ネイサンの農地開拓の失敗と死は、農地開拓と結びついたマニフェスト・デスティニーのイデオロギー、ひいてはアメリカの拡張主義に対するメルヴィルの根底的な批判として読むことができるだろう。
また、明白でないのは国家像だけではない。オスマン帝国支配下の聖地パレスチナを舞台とする『クラレル』には、メキシコ併合を契機に放浪者となった「アメリカ人」や傭兵となった旧南軍兵など、ナショナリティや思想信条の異なる多くの人物が登場するが、ここでは、不透明になった神と人との関係同様、人物の感情や思考も極めて不透明なものとして描かれ、しばしば内部(belonging)と外部(strangeness)の境界が可動的である。本発表では、もはや明白でない国家の運命を背景に、人物たちの間に情動がどのように喚起され関係を構築するのか(あるいは切り結ぶのか)を考察する。

研究代表者:下河辺美知子(成蹊大学)
研究分担者:巽孝之(慶應義塾大学)・舌津智之(立教大学)・日比野啓(成蹊大学)

どなたも歓迎ですが、会場整理の都合上、hibinoあっとまーくfh.seikei.ac.jpに前日までにご連絡ください。