2015年度第4回研究会:重ね書きのパレスチナと情動:ハーマン・メルヴィル『クラレル』を中心に

主催:科学研究費・基盤研究(B)「マニフェスト・デスティニーの情動的効果と21世紀惑星的想像力」

2016年3月6日(日)16:00-18:00 成蹊大学10号館2階・第2中会議室

講師:貞廣真紀

講師紹介:明治学院大学英文学科准教授。ニューヨーク州立大学バッファロー校大学院英文科博士課程修了 Ph.D 共著に『アメリカ文学のアリーナ−−ロマンス、大衆、文学史』(松柏社、2013年)、共訳書にエドワード・サイード『故国喪失についての省察2』(みすず書房、2009年)、論文に “The Transatlantic Melville Revival and the Construction of the American Past,” Sky-Hawk 2 (2014): 44-63。

本基盤研究(B)は、マニフェスト・デスティニーのレトリックの国際政治における意義を歴史的にたどると同時に、その心理的・精神的効果がアメリカ国民の情動を操作するナラティヴとしていかに機能しているかに焦点をあて、地球規模でのアメリカの位置を読み直すことを目指している。
今回は、メルヴィル研究者貞廣真紀氏をお迎えする。ハーマン・メルヴィルの『クラレル』(1876)は、西部開拓からパレスチナのシオニズム運動に至るまで、予型論的な想像力に支えられながら拡張してきたアメリカの歴史を再演しつつ、同時に解体(unlearn)しようとする欲望に支えられている。聖書が西部フロンティアに「約束の地」の予型を与え、今度はフロンティアの原型がパレスチナの予型の役割を果たすという重層化された風景の記述を意識するとき、アメリカ人ネイサンの農地開拓の失敗と死は、農地開拓と結びついたマニフェスト・デスティニーのイデオロギー、ひいてはアメリカの拡張主義に対するメルヴィルの根底的な批判として読むことができるだろう。
また、明白でないのは国家像だけではない。オスマン帝国支配下の聖地パレスチナを舞台とする『クラレル』には、メキシコ併合を契機に放浪者となった「アメリカ人」や傭兵となった旧南軍兵など、ナショナリティや思想信条の異なる多くの人物が登場するが、ここでは、不透明になった神と人との関係同様、人物の感情や思考も極めて不透明なものとして描かれ、しばしば内部(belonging)と外部(strangeness)の境界が可動的である。本発表では、もはや明白でない国家の運命を背景に、人物たちの間に情動がどのように喚起され関係を構築するのか(あるいは切り結ぶのか)を考察する。

研究代表者:下河辺美知子(成蹊大学)
研究分担者:巽孝之(慶應義塾大学)・舌津智之(立教大学)・日比野啓(成蹊大学)

どなたも歓迎ですが、会場整理の都合上、hibinoあっとまーくfh.seikei.ac.jpに前日までにご連絡ください。