一、本研究が、アメリカ研究の一つとして近隣領域を取り入れた学際研究であることは言うまでもない。しかし、本研究では、アメリカ合衆国のみを対象としてその存在の意義を問うこれまでのアメリカ研究の枠を拡大し、南北アメリカ大陸を他の大陸との相対的関係の中に置き、惑星規模の視野の中で研究対象を俯瞰するという立体的な学際研究を目指している。
二、本研究の独創的な点は、政治・軍事のレトリックで語られるべきアメリカの拡張運動に、文学批評の手法と洞察から光をあてることである。国民国家としてのアメリカを成立させてきた「同一性」とは、理念の上に言葉によってねつ造されてきた。緻密な修辞に注目する文学研究の手法を導入することで、半球思考の底に宿る拡張の欲望と境界の不安をめぐるアメリカ国家の政治的欲動を科学的に検証することができるであろう。
三、本研究の強みは、『アメリカン・テロル』(2009)、『アメリカン・ヴァイオレンス』(2013)、そして基盤(B)「モンロー・ドクトリンの行為遂行的効果と21世紀グローバルコミュニティの未来」(2010~2013)という三つの局面において積み重ねてきた研究実績が基盤になっていることである。本研究では、テロ(恐怖)への精神分析的洞察、見えない暴力への社会的文脈からの視点、政治的レトリックにおける内包の欲動の分析といった研究成果をもとに、これまでの情動研究には見られないユニークな取り組みを期待している。植民地という「部分」から出発した合衆国では、国家という「全体」を形成する運動に加速度がつき、その後も拡張の衝動をグローバル規模で展開してきた。21世紀の今、これはアメリカ合衆国一国の問題ではなくなっている。本研究では、国家の欲望が拡張のモメントを抱え込む必然を、情動という面から解き明かし、その心的運動が大陸という境界を超えて地球を覆う環大西洋・環太平洋という二つの空間において展開されていることについて考察する。その洞察から、「テロ」や「核」といった地球の未来を左右する問題についての新しい言語をさぐりたい。
四、本研究遂行により予想される結果と意義として、アメリカ合衆国を西半球的存在として惑星規模でとらえなおした結果、国家的拡張を語るナラティヴの情動的効果があぶり出され、21世紀の国際社会に対して人文科学研究からの具体的提言を発信することが考えられる。